~Introduction~
こんにちは、Circulation - Cameraです。今回はミラーレス機のレンズに関する話です。ミラーレス機は一眼レフ機と比較してクイックターンミラーやペンタプリズムを省略できますので小型化することができるというメリットがありますよね。
しかし!
そんなことはミラーレス化の利点のほんの1つに過ぎません。ミラーレス化することの重大な利点の1つに「レンズ設計の自由度が増す」というものがあります。今回はそれについて触れてみたいと思います。
~先に結論を~
なぜ一眼レフに比べてミラーレスではレンズ設計の自由度が増すのかというと、、、
① フランジバックが短くなったから
・レトロフォーカス設計の必要性がなくなった
・後玉の設計に自由度が増した
② マウント径を大きくしやすいから
~フランジバックとは?~
最初にフランジバックという専門用語を紹介します。フランジバックとはマウント、すなわちレンズとカメラボディの接点、から (ざっくりと言えば) 撮像素子までの距離を指します。下の図をご参照下さい。
ミラーレス機はミラーが省略されるのでフランジバックは短くできますよね。簡単な話でございます。
~広角レンズ~
さて、少し話が変わるようですが広角レンズは焦点距離の短いレンズを指しますよね?図で描くとこういうことになります。
勘が良い方はもうわかったと思いますけど、そうすると一眼レフの場合はミラーが邪魔になってしまいます。
このため、一眼レフの場合はレトロフォーカス(前に凹レンズ、後に凸レンズを配置)という構造が必要となるのです。1963年にCarl Zeissのエルハルト-グラッツェル博士の設計したDistagonがこれにあたります。ちなみに一眼レフカメラが本格的に出現してきたのは1950年代後半ですからミラーとレンズとの干渉は、一眼レフが一眼レフである以上は生じる構造的な制限であったわけです。
わざわざレトロフォーカス設計にしなくてはいけないということはレンズ設計における制約に他なりません (※1)。また、レンズはどうしても大きくなりがちです。一方、ミラーレスになればこの縛りは無くなりますから広角レンズの設計の自由度が増すという理屈です。また、そうでなくてもフランジバックが短くなればレンズの後玉の設計に自由度が増すのは自明の理ですよね?マニアックな言い方をすればガウスタイプのような素直な構造のレンズが実現しやすいということです。
~マウント径~
2018年。覚えていますでしょうか?一眼レフメーカーの二大巨頭であったNIKONとCANONがフルサイズミラーレス業界に参戦したことは大きなニュースでした。そして、NIKONもCANONもフルサイズミラーレスシステムを構築するにあたりレンズマウントを刷新しました。新旧のマウント径とフランジバックを並べてみましょう。
ここまで読んでいただければ当たり前のことでしょうが、いずれもフランジバックが短くなっています。そしてZマウントの場合、従来よりもマウント径も大きくなっています。
~マウント径の大型化~
一般的にマウント径が大きいほど明るいレンズ (解放F値の小さなレンズ) を作りやすくなります。しかし、ただでさえミラーとペンタプリズムで大きくてレンズも大きくなりがちな一眼レフではマウント径を控えめにしたくなります。なのに現在はレンズとカメラの機械的な接続だけでなく、CPUとの情報交換するための電気接点も必要です。なのでFマウントのような小さなマウントが余計に苦しかったのです。
~明るいレンズが作りやすい~
マウント径が大きくなれば明るい (F値の小さな) レンズが作りやすくなりますと先ほど書きましたが、これはイメージできますかね?
理屈的に書けば、レンズの有効口径 (入射ひとみ (※2)) = 焦点距離 ÷ 開放F値という公式があります。これに58mmというレンズを当てはめてみましょう。
・焦点距離58mm F2.8のレンズの場合、20.7 mm
・焦点距離58mm F1.4のレンズの場合、41.43 mm
・焦点距離58mm F0.95のレンズの場合、61.05 mm
NIKONのフラッグシップレンズにNIKKOR Z 58mm f/0.95 S Noctというものがあります。
58mm F0.95のような超大口径レンズはマウント径44mmのFマウントでは実現することは不可能だったことが分かりますよね (※3)。ちなみにこのレンズの断面図は下の通りです。後玉までがっつりとレンズが詰め込まれています。これもフランジバックの長いミラーレスならではですよね。
~ここまでのまとめ!~
なぜミラーレスでレンズ設計の自由度が増すのかというと、、、
① フランジバックが短くなったから
・レトロフォーカス設計の必要性がなくなった
・後玉の設計に自由度が増した
② ボディが小型化した分、マウント径を大きくしたから
ここまででほとんど今日の話はおしまいです。ここからは少しマニアックな話になっていきますので、さらに興味のある方は読んでやって下さいませ ( ̄▽ ̄;)
~テレセントリック的な設計に有利~
上の図が最も簡略化したレンズと入射してくる光の模式図です。しかしデジタルカメラの場合はフィルムと違って撮像素子に厚みがあります。バケツのような構造をしているので周辺であっても光がなるべく直線的に入るように設計します。難しい言い方をすると「射出ひとみ (※4) が遠い位置になる」ようにします。
これを突き詰めたものが射出ひとみが無限遠にあるテレセントリック光学系です。マウント径が大きくなると射出ひとみを遠くに追いやることができてテレセン系を達成しやすくなるということです。下の図のようなイメージです。
~まとめです~
ミラーレス化によってレトロフォーカス設計は必ずしも必要ではなくなり後玉の設計も自由度が増しました。そのため、よりシンプルに広角レンズを設計できるようになりました。またマウント径が大きくしやすくなったことも大口径でより高画質なレンズを作れることに一躍買っていることになります。
~おわりに~
ということで今回は「なぜミラーレス機になるとレンズの自由度が増すのでしょうか?」ということについて自分なりに語ってみました。このようにミラーレス化は小型化だけではなく画質にも恩恵があるのです。もっとも、広角レンズに比べて望遠系レンズに関してはそれほどミラーレス化の恩恵は大きくないのかもしれませんね。
最後になりますが、私も本職カメラメーカーではありませんので間違っていることはあるかもしれません。勘違いしていることや補足事項がございましたら、お手数ですがコメント欄までお願いします。確認して訂正させていただきます。
ただ、レンズ設計の自由度が増す理由を細かく説明しているページは案外少ないですし、似たような疑問を持っている方もいるかと思い、この記事を書いてみました。
それでは、今日はここで失礼いたします。
~注釈~
※1.) ただし、周辺の収差補正を行う場合はレンズ枚数を増やしやすいレトロフォーカスの方が有利な場合があります。だからミラーレス機用のレンズでも敢えてレトロフォーカス的な構造にする場合もあります。
※2.) 入射ひとみは離れたところからレンズを見たときの絞りの大きさです。レンズの有効口径は実際の絞りの径でなく、この入射ひとみの径を指します。
※3.) マウント径が大きくないと高画質で明るいレンズが実現できないということではありません。その理屈ではFマウントのレンズは格下だらけということになってしまいます。実際は異常分散レンズや非球面レンズを組み合わせて高性能なレンズは実現可能なのです。マウント径が大きい方が素直な設計で高画質で明るいレンズを作ることができるというニュアンスだと考えます。だから仮に同じ20mm F1.8というレンズがあっても一眼レフ用よりもミラーレス用の方が収差の捌き方が優れていたりするのでしょう。
※4.) 射出ひとみは撮像素子側から見た絞りの大きさです。同じ50mm F1.0のレンズでも入射ひとみの径は変わりませんが、射出ひとみ径は変わることになります。
~関連リンク~
マウントを刷新すると、当然マウントアダプターも話題になります。そんなマウントアダプターの構造を記事にしたことがありますので、気になる方は、是非 ^^