〜クイズです〜
カメラクイズです (`・ω・´)b
レンズのF値とT値の関係について最も適切なものを1つ選んで下さい。
(1) T値はレンズの透過性を加味した実質的な明るさの指標であり、原理的にT値はF値よりも大きな値となる。
(2) 超望遠レンズの場合、ピント位置を変えた際のF値の変動が目立つため、F値の代わりにT値を採用することが多い。
(3) マクロ撮影をする場合、実質的なF値は公称されている値よりも大きくなる。そのため、F値ではなくT値が採用される。
F値は知っているけど、T値って何!?
一部のレンズでF値の代わりに採用されている数字なのですが、見たことのない方も多いかもしれません。
今日はこの聞きなれない言葉、T値について解説していきます!
※SONYホームページから引用
なるべく分かりやすくまとめたつもりですが、途中でレンズコーティングにも触れてみましたので、ちょっと長い記事になってしまいました💦
4000字くらいかな ^^;
興味のある方は、時間のあるときにゆっくり読んでやって下さいませ m(_ _)m
〜答え & 解説!〜
今回のクイズの答えは (1) でした!
簡単にT値について説明していきます。
まず、F値ですが、これはカメラを扱う多くの人が目にする数字ですね💡
F値はレンズの明るさを表します。
例えば同じ焦点距離28mmのレンズでも、F2.8とF1.4では後者の方が明るいレンズと言えます。
ここまでは良いですよね?
では、もう一歩突っ込んで考えてみます。
ここにメーカーの違う焦点距離28mm, 開放F値1.4のレンズが2本あるとします。
これらを比べた場合、明るさは本当に同じでしょうか?
実は厳密には異なる場合が多いのです。
カメラのレンズは複数枚のレンズの集合体です (変な言い方ですが ^^;)。
例えば、こんな風に…
左はCarl Zeissの28mm F1.4のレンズで、右はNIKONの28mm F1.4のレンズです。
見比べてみてください。
似てはいますが、使用しているレンズの枚数や形状が異なりますよね。
※左は13群16枚のレンズで、右は11群14枚のレンズで構成されています。
さて、レンズの表面では反射が発生します。
① 使用しているレンズの枚数が少ない方が、
② または1枚1枚のレンズの透過性が良い方が、
透過性が良い、明るいレンズということになります!
これ大事です!! > ( ..)φメモメモ
この「透過性」という概念も考慮したのがT値です。
つまり、
「F値はレンズ透過性100%と仮定した場合の明るさ」
ですが、
「T値は実際の透過性も考慮した明るさ」です。
※実際、T値のTはtransmissionという「(熱・光の) 伝導」を意味する単語の頭文字です。
さて。
ということは?
F値よりも、T値は大きい値になりますよね💡
例えば同じ焦点距離28mm, F1.4のレンズであったとしても、透過性も加味したT値は1.5だったり1.7だったりするかもしれないのです。
ご理解いただけましたでしょうか??
以上でT値の説明は終了です!
(´▽`)b
ということで、最初のクイズの答えは、
(1) T値はレンズの透過性を加味した実質的な明るさの指標であり、原理的にT値はF値よりも大きな値となる。
となります💡
〜T値は何故見かけない?〜
このように、T値はF値よりも正確なレンズの明るさの指標です。
なのに何故あまり見かけないのか?
そこにはいくつか理由があります。
例えば、昨今のカメラの自動露出計はレンズを通過した光で計算する、Through The Lenz (TTL) 測光が主流であることや、マニュアルで露出を調整する場合でもデジカメなら撮り直しが何回でも可能なので、厳密なレンズの明るさを知る必要性が低いことは理由として挙げられるでしょう。
しかし、特に重要なポイントとして、
「最近のレンズはT値とF値が大きく違わない」
という点が挙げられます (゚д゚)!
これはちょっと強引ですが、
「最近のレンズは透過性が良く、F値もT値も大きく変わらない」
と言い換えることができます。
このレンズの透過性に大きく関わるのが、
コーティング技術です!
ということで、次は「コーティングとT値の関係」について説明致します m(_ _)m
〜ナノクリ、高くない!?〜
ちょっと話が変わるようですが、私がカメラ初心者の頃、カメラ屋さんでNIKONのレンズを眺めていて不思議に思ったことがあります。
「N」って書いてあるレンズ、高くない!?
ってことです (笑)
この刻印がされているNIKONレンズはナノクリスタルコーティングが施されているという証明です。いわゆる高級レンズですね。
でも、なんでコーティングを良くしただけでレンズの値段が跳ね上がるんだ?
コーティングってそんなに大事なの??
〜コーティング、超大事!〜
実はこのコーティング技術はレンズにとって非常に重要なものなのです。
周りのカメラ好きに聞いても、
「コーティングが良いとフレアやゴーストが減るんでしょ?」
くらいの認識の方が多いようです。
もちろん、これは正しいです。
しかし、実はコーティングはレンズの透過性と密接な関係があるのです。
コーティングされていない単純なガラス面では光の4%が反射するといわれます。
1枚のレンズにつきガラス面は2つあるので以下の図のようになります。
すなわち、1枚のガラスを通過するだけで、
光量は約92%まで低下してしまいます。
下のような4群6枚のレンズではどうでしょう?
反射は空気とレンズの境界で発生しますから、以下の8箇所で反射が発生します。
1箇所ごとに96%の光しか通過できないので、
透過率は0.96の8乗で、約0.66!
したがって、たったの66%の光しか通過できませんし、屈折も激しく収差の原因となってしまいます。
これを大きく打破したのが、
「コーティング技術」なのです!
先ほど、一般的なガラスの反射率は4%とお話ししましたが、ナノクリスタルコーティングでは反射率は0.05%まで低減できると言われています。
Σ(・□・;)!!
同じレンズで計算してみましょう💡
一回反射しても99.95%の光は通過できるので、0.9995の8乗は約0.996~0.997。
従って、99.7%もの光が通過できます。
66% vs 99.7%です!
その差は歴然ですね!
((((;゚Д゚))))
ただし、ナノクリレンズであってもレンズのすべての面にナノクリコーティングされているわけではありません (詳細は記事の最後の「追記」の欄に記載致します)。
何にせよ、このように余計な反射を抑制するので、もちろんコーティングでフレアやゴーストも減少しますが、それ以上に透過性が段違いなのです。
※注釈:なお、反射率はメーカーにより数値が異なり、0.1%というのは参考値ですのであしからず ^^;
〜コーティングの歴史〜
ちょっとマニアックな話ですが、歴史についても軽く触れておきます。
コーティングがレンズに本格的に応用されたのは1940年代からだと言います。
それまでは、
①構成するレンズの枚数を減らす
②空気となるべく接触しないように構成するレンズ同士を張り合わせる
といった方法で、少しでも透過性を改善させようとしていました。
例を挙げるなら1929年に開発されたSONNARタイプレンズは構成レンズを張り合わせることで空気との接触を低減させたことで有名です。
そう考えると、コーティングが採用されたことでレンズの設計は飛躍的に自由度を増したと言えるでしょう。Σ(・□・;)
とはいえ、1940年代に出始めたコーティング技術はフッ化マグネシウムなどの薄膜を蒸着した、「単層式」コーティングと言われる技術で、ガラス表面での反射率を4%から1%程度に抑制する技術だったそうです。
※もちろん、これだけでも凄いことですが!
現在のコーティングは「多層式 (マルチコート)」と呼ばれ、1970年代から実用化され、0.1%~0.05%という驚異の低反射率を実現しています。
〜まとめ!〜
・F値とはレンズの透過率100%と仮定した際のレンズの明るさの指標です。
・T値はレンズの透過率も計算に入れた明るさの指標です。
・したがって、T値はF値より大きくなります。
・ただし、より厳密な指標であるT値なのに、F値ほど昨今では広く用いられません。
・それはTTL測光が主流であることなどが原因でしょうが、そもそも昨今のレンズは透過性が良く、T値とF値の解離が小さくなっています。
・そのレンズの透過性の改善には、コーティングが大きな役割を担っています。
・コーティングの採用によってレンズ設計の自由度は大きく増したと言えます。
〜終わりに〜
さて、本日はあまり馴染みのないT値という概念の説明と、レンズのコーティングの重要性を説明してみました💡
ナノクリレンズを初めに見たとき、たかがコーティングで何でこうまで値段が違うのかと不思議でしたが、勉強していくうちにコーティングの重要性が分かるようになりましたので御紹介いたしました。
最後になりますが、不明な点や私が勘違いしている点がございましたら、コメント欄にお願いいたします m(_ _)m
それではまた次回、お会いしましょう♪
※以下の「おまけ」は若干マニアックなのですが、興味のある方はご覧くださいませ ^^
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~おまけ① T値の計算~
T値 = F値 ÷ √透過率(%)×10
上記の式でT値は計算できます。
例えば、F1.4で透過性85%のレンズの場合、1.4 ÷ √85×10なので、T値はおよそ1.5となります。
~おまけ② STFレンズ〜
現在でもスチールカメラの世界において、F値ではなくT値で明るさが表現されているレンズの代表としてSTFレンズがあります。
これはSmooth Transfer Lensの略称で、非常に美しいボケ味が特徴です。
現在のSONYから発売されている「SAL135F2.8 〔T4.5〕」はその代表例でしょう。
※SONYホームページから引用
STFレンズでは、滑らかなボケを表現するために、レンズの周囲に「アポダイゼーション光学エレメント」を配置しています。その結果、ボケの辺縁はなだらかになり、非常に滑らかなボケを楽しめます。
ただし、美しいボケ味と引き換えに、周囲にアポダイゼーション光学エレメントを配置しているという事は意図的にレンズ周囲の光量を落としていることになります。従って、レンズの透過性は均一ではなくF値では明るさが表現できません💦
この場合は、透過性を加味したT値でレンズの明るさを表現するべきですよね。
そのため、レンズ名も「SAL135F2.8 〔T4.5〕」などとなっているわけです。
※そしてF値よりT値の方がかなり大きい数字になっていますね💡
※ちなみに、被写界深度の計算ではT値ではなくF値が採用されます。ややこしいですね ^^;
〜追記 (2018-02-17)〜
「ナノクリレンズといっても全面コーティングではないでしょ?」というご指摘を頂き調査したところ、ナノクリでコーティングされているレンズは基本的に1枚だけだそうです!(・Д・)
知りませんでした💦
勉強不足ですいません。
銀座のNIKONプラザに出向いて確認しましたが、
・どの構成レンズをコーティングしているかは社外秘
・他の構成レンズも当然コーティングされていますが、公称している名称はありません
とのことでした。
裏を返せば、やはりコーティングはレンズ設計において重要な位置を占めているということなのでしょう!
以上、追記させていただきました。
ご指摘ありがとうございます m(_ _)m