さて、今回はレンズの名称について述べてみたいと思います。
歴史も絡めた読み物的な内容にしてしまったので、5000字近く、ガチで読むと30分くらいかかるかもしれません (; ・`д・´)
量があってオタクな内容なので、興味のある方は御時間のあるときに読んでやって下さいませ ^^;
~前置き~
さて、CANONやNIKONのレンズはスペックがそのまま名称になっています。
例えばNIKONの「AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR」の場合、
・AF-S → 超音波モーター式のオートフォーカスを搭載
・24-70mm → 35mm換算で24-70mmでズームできます
・f/2.8 → 細小絞り値は2.8です
・E → 絞りは電子制御です
・ED → 特殊低分散硝子を採用し色収差を抑制しています
・VR → 手振れ補正が付いています
と、記号が読めるとスペックが分かる仕組みです。言いようによっては無機質なネーミングです。
確かに、愛称として「400mm F2.8をヨンニッパ」とか「70-200mm F2.8をナナニッパ」とか呼びますが、LEICAやCarl ZeissやVoigtlander (フォクトレンダー、って読みます ^^;) のレンズにはさらに独特な名称が目立ちます💡
このブログにも時々出てくるDistagonとかApo Sonnarとか・・・。
今回はこれらがどういうレンズなのか簡単に見てみましょう ♪
※「収差」というレンズの粗を示す専門用語がちょくちょく出てきます。この記事では、単なるレンズ名紹介ではなく「より収差が少なく」、「より明るく」と目指してきた歴史も絡めてありますので、よろしければこちらも御参照くださいませ
m(_ _)m
(1) Carl Zeissレンズの名称
① ディスタゴン:Distagon
・よくこのブログでも登場しているのでトップバッターとして御紹介しますが、本日紹介する中で一番歴史の浅いレンズタイプです。諸説ありますが、1963年 (東京オリンピックの頃) にドイツで花開いたレンズタイプで、開発者はエルハルト-グラッツェル博士。
・最大の特徴はバックフォーカスを大きくとれることです💡
バックフォーカスというのは「レンズの一番後方から画像素子 (=センサー) までの距離」のことです。なんでそんなことが重要かというと、それまで主流だったBiogon (ビオゴン) 型は超広角レンズを設計するとバックフォーカスが短かく、一眼レフのミラーがぶつかってしまって使えなかったのです。
これを克服した方法論をレトロフォーカスといいます。詳細は割愛させて頂きますが、Biogonと違い、非対称型のレンズ構成にしてやることでBiogonの欠点を払拭したのです。
・欠点として、Biogon型より湾曲が大きいことが挙げられます。
・語源はディスタンス (距離) +ゴン (角度)
② プラナー:Planar
次はもっと歴史の古いレンズを見てみましょう。
・こちらは平坦を意味するplan (プラーン) が語源です。
・1889年にイギリスのクラーク氏が設計した4群4枚のレンズを元に、Carl Zeissのパウル・ルドルフが1896年にPlanar F3.6(4群6枚)を設計したのが始まりです。
・「4群6枚」というのは「6枚レンズを使っています。そのうち何枚かは結合しているので4群のレンズ群で構成されていますよ。」という意味です。
下図をご参照ください。
「4群6枚」、納得して頂けますか?
※本記事の画像は特に注釈なければWIKIPEDIAから引用しています。
※こういう絞りを挟んで対象型としたレンズ構成をダブルガウス型と呼びます。ダブルガウス型レンズは歪曲収差や像面湾曲が少ないという特徴があります。Planarの語源が「平坦」であるのはこの特徴からです。
・Planarは湾曲が小さく開放F値も小さくし易かったのですが、開放での収差 (描写の甘さ) が目立ちました。
・これを改良しようと苦心し続けるのですが、後世 (1950年以降) でコーティング技術が確立されるとコマ収差なども著しく抑制され、描写性が改善し、一眼レフ用レンズとしてさらに広く用いられるようになりました。
② トリプレット
・1800年代後半にイギリスで開発されたレンズタイプです。
・その名の通り3枚のレンズを組み合わせています。
・シンプルな構成なのに収差はそこそこ抑制されており、現在の多くのレンズの原型とも言われています。(御国は違えど) この直属とも言える派生形が、この後紹介するTessarやSonnarなのです。
③ テッサー:Tessar
これは1903年にパウル-ルドルフ博士が設計した、凄くシンプルなパンケーキレンズです。Carl Zeissの古の代表的なレンズでもあります。
凸+凹+凸凹という構成です。トリプレットの3枚目を凸凹タブレット型にしたものです。3群4枚ですね。
・ギリシャ語の4を表すテトラがその名の由来です。
・コンパクトなのに良く映ると大人気だったようです。
・ただ、欠点として以下のようなものが挙げられます。
a.) 標準域の画角のレンズになりズームは当然不可能なこと
b.) 開放F値が暗めなこと (初期はF6.3スタートだったようですよ)
・とはいえ、今でもシンプルでコンパクトで人気があります。
④ エルノスター
Sonnarタイプのレンズ構成を語る上で必要なレンズです。
エルノスターは天才ルービット・ベルテレが 1924年に開発したレンズで、トリプレットタイプの1枚目と2枚目の間に凸メニスカスレンズ(群)を配置したレンズです。トリプレットタイプと見比べていただければ分かると思います。
※メニスカスレンズとは三日月型のレンズです。
・この改良によって開放F値を小さくすることに成功しました!それも100mm F2のような革命的な明るさです (゚Д゚;)
・しかし、コマ収差や非点収差は残存しており更なる画質改善が求められました。これをレンズの構成枚数を増やすことで解決しようとすると、レンズと空気による屈折率の違いで、むしろ画像のコントラストが低下してしまうというジレンマがあり、それを解決するために次のSonnarが出てくるわけです。
⑤ アポゾナー:Apo Sonnar
普通にSonnarの解説をすればいいのですが、前回・前々回とあれだけ「アポゾナーアポゾナー(/・ω・)/」とわめいていたのでApoとSonnarを同時に説明します。
<Apo>
Apoはアポクロマートレンズ使用を表します。色収差を抑えて色のにじみを減弱させる効果があります。異常部分分散硝子という素材を使用するのですが、素材が高価なので、Apoがつくレンズはだいたい高価です。
<Sonnar>
Sonnarは太陽という意味です。
※ちなみにエルノスターは星という意味です
Sonnarは、もともとはべレテレ氏がさらにエルノスターを改良して1929年に発明したレンズです。レンズ構成はこういう感じです。
ギチギチにガラスが詰め込まれています (`・ω・´)
比べてもらえば分かると思いますが、エルノスターの隙間をガラスで埋めたような感じです。
コーティング技術がない時代でしたから、こうすることで屈折率の異なるガラスと空気がなるべく接触しないようにしつつ、たくさんレンズを使用しさらに収差を抑え込んだわけです。
<Sonnar VS Planar>
・Sonnarはこういった努力でコマ収差などが抑制されており開放からカッチリと映るのが特徴でしたが、湾曲が問題で、1930-1940年代にはしばしば湾曲の小さなPlanerと比較されていたようです。また、Planarの方が開放F値も小さく設計しやすいのもあったのですが、なんだかんだ当初はその画像のシャープさからSonnarに軍配が上がりがちだった様子です。
・しかし、1950年以降、コーティング技術が発達しPlanerの描写が改善しました。
・一方でSonnarは標準域で設計するとバックフォーカスが短く、一眼レフのミラーが干渉してしまうため一眼レフが普及してからは標準域での使用頻度が激減したと聞いております。
※今でも中望遠レンズに採用されることはままあります (私の愛用のApo Sonnar 2/135mmのように(^^♪)。
※余談ですが、最近のSonnarと称されるレンズは上記のような特徴がなくても「Sonnar」と名付けられ、定義が曖昧なようです ( ̄◇ ̄;)
⑥ ビオゴン:Biogon
これもZeissの天才ベルテレ氏が1930年代に最初に発明した広角レンズです。
Planarと同様でダブルガウス型設計ですがPlanarが開放F値の小ささ、すなわち明るさを目指したのと違い、広角に向くよう設計されています。凹凸絞り凸凹という構成が基本でコンパクトな構成です。
※Planarとは逆に凹レンズを前に使用することで広角に有利にしています。
・名前の由来はビオ (生命) + ゴン (角度) 。
※「目に映る自然な世界を切り取る」的な意味合いだと思います。
※引用:http://www.nikon-image.com/enjoy/life/historynikkor/0001/index.html
・前述したように、このような対象型 (ダブルガウス型) は広い画角をカバーしても湾曲が少ないのが利点です。しかも前部の強い凹メニスカスレンズの効果で周辺光量の落ち込みが少ないのも魅力です。
・欠点は最初のDistagonの項で触れたとおり、バックフォーカスが短いのでミラーと干渉してしまう点です。そこで一眼レフが台頭してきたので1960年頃になってDistagonが設計された、といった歴史になるわけです (`・ω・´)b
※同じ理屈で、一眼レフでは左右対称型のPlanarやSonnarも広角~超広角では使用困難です。
いやぁ、長かった!!これでも絞ったんですよ ^^;
ホロゴンとかいろいろ省きましたしね。。。
長かったので以下にまとめておきました (`・ω・´)
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~まとめ~
・1800年代後半にトリプレット構造が発表されてから様々な工夫がこなされた。
・1つの例はTessar型で、凸+凹+凸凹という構成にすることで収差が減少した (1903年)。
・一方でエルノスターという明るさを向上させた進化もある。
・さらにエルノスターに残存する収差を取り除こうとレンズ構成枚数を増やし、ガラスとガラスの密着を強め、空気との屈折率差の影響を緩和させたのがSonnar (1930年代)。
・上記は全て非対称型のレンズ構成だが、1896年にはPlanarという左右対称型 (ダブルガウス型) レンズが作られた。歪曲が少なく均一な画質で明るいのが評判であった。
・SonnarとPlanarはしばしば対比され、開放から解像度の良好なSonnarの方が優勢であった様子だが、1950年以降、コーティング技術が発展するとPlanarもSonnarに勝るとも劣らぬ解像度を手にした。
・Planar同様、ダブルガウス型であるが、広角用に設計されたのがBiogon (1930年代)。
・しかし、Biogonはバックフォーカスが短く、一眼レフに対応するために1960年台から、Distagonが発展してきたという歴史がある。
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※追記:
最近のZeissレンズの名称には「Otus」「Milvus」「Loxia」「Batis」などが散見されますが、これらはシリーズ名でありレンズ構成とは関係ありません (いずれも鳥類の名前です)。
例えば、Milvus 2.8/21mmはレンズ構成でいうとDistagon 2.8/21mmですが、Milvus 1.4/85mmはPlanar 1.4/85mmです💡
(2) フォクトレンダー
① ノクトンは開放F1.4クラスの明るいレンズ (闇夜≒ノクト)
② ウルトロンは開放F2前後のダブルガウス型レンズ
③ スコパーは開放F2よりも大きなF値で3群4枚Tessar型構成レンズ
④ ヘリアー
1900年にハンス・ハルティングが設計した。新種ガラスを使用しトリプレット3群3枚のうち前群と後群を張り合わせにした3群5枚です。
※昭和天皇夫妻の御真影もヘリアーで撮影されたといいます (WIKIPEDIAより)。
⑤ アポランター
異常低分散ガラスを使用している高評価なマクロレンズです。2017年7月にEマウント版が発表されました。
※羨ましい、使ってみたい ^^;
(3) LEICA
この項目は全く自信ないです ^^;
何故なら、LEICAの交換レンズは使ったことがないのでちゃんと勉強したことがないのです。。。さすがにノクチルックスとかズミクロンとかは耳にするので軽く調べたことがあるのですが、ここでは知っていることを中心にサラッと書いておきます。
※なので掲載しきれなかったレンズ名がたくさんあります、すいません💦
Carl Zeissと異なり、レンズ構成ではなく基本的に開放F値によって名前が分かれてるということは有名です。
①ノクチルックス:Noctilux
開放F値1.2未満に与えられた名前。夜の光という意味。Leicaの中でも高価。
②ズミルックス:Summilux
開放F値1.4。SUMMはラテン語のsummaに由来し、「最高のもの」と言う意味。ダブルガウスタイプのレンズが多いようです。
③ズマリット:Summarit → 開放F値が約1.5
④ズミクロン:Summicron → 開放F値は約2.0
⑤ エルマー Elmar
これだけは名付けのルールが違い、レンズ構成に名が付いています。その構成は概ね3群4枚のTessar型です。
※3群5枚構成のレンズはエルマックス(Elmax)やアナスチグマット(Anastigmat)というそうです。
~最後に~
いかがでしたでしょうか?自分の知っている限り+αでレンズ名称について紹介してみました。特にLEICAはもっと勉強しなくてはいけませんよね💦
私はレンズマニアではないので細かいところは少しニュアンス等が間違っているかもしれません ^^;
・「ちょっとこれは勘違いしているな」
・「これは紹介したほうがいいレンズタイプだよ!」
というのがあれば、是非教えてくださいませ m(_ _)m
~次回予告~
ちょっと疲れたので、次回は久しぶりに軽いビール話を挟もうと思っています。
それでは、今回はここで失礼します!
これからもよろしくお願いします m(_ _)m