Circulation - Camera

巡る季節を写真に残す! ~Since 2017-05-01~

カメラの豆知識 ~ISO不変性 (ISO invariance) を知ってみよう~

こんにちは、Circulation - Cameraです。

今日は「ISO不変性 (ISO invariance)」という概念について御紹介したいと思います。

既にご存知の方もいらっしゃるでしょうが、ISO不変性とは、ISO感度を上げて撮像した写真も、ISO感度を下げて撮像して、その後RAW現像で明るさを調整した写真もほとんど同じ結果になる」というものです。

 

(`・ω・´) < …ん??どういうこと??

ってなりますよね ^^;

 

言葉で説明するより、実際に写真を比べて頂いた方が分かりやすいでしょう。まず、こちらの写真をご覧ください。

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写真??ただの黒い画像じゃないか??

それは正しい反応です ^^;

実はこの写真、

ISO 3200, F 8, SS 1/40 が適正露出の場面で、

ISO 100 F 8, SS 1/40 で撮影しています

ISO 3200をISO 100!?

なにやってんの!?

5段もアンダーで撮影したら、

当然暗い写真になりますよね ^^;

でも、これをRAW現像で、

5段上げるとこうなります!

DSC_1528_00001

驚いたことに、意外と見れる写真になります!

(・Д・)

ちなみにISO 3200, F 8, SS 1/40 secで、

普通に撮影したのはこちらです。

DSC_1533

ここで思いません??

『パッと見では、あまり違いが無い」と。

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このように、ISO 100で撮影して後でRAW現像で露出を上げた写真も、ISO 3200で撮影したものも、結果が大きく変わらない!

これがISO不変性です。

今日はこの現象についてしっかりと考察してみたいと思います。結構上級者向けな内容であることと、しっかりと考察したせいで、5000字近い (最後の「おまけ」を入れると6000文字以上の) ちょっと長い記事になってしまいましたので、むのに10~20分程度かかってしまうかもしれません💦

なので、興味のある方は時間のある時に読んでやって下さいませ。

それでは、長い前置きになってしまいましたが、よろしくお願いします m(_ _)m

 

ISO感度とは?~

ISO不変性について考える前に、ISO感度とは何なのかを改めて確認しておきましょう。ISO感度を上げたとしても、当たり前ですが、撮像素子が受け取る光の量が変わるわけではありません。撮像素子が受け取る光の量を決めるのはF値とSSだけです (これ重要です)!

つまり、ISO感度を上げるというのは、撮像素子が受けた光をどれだけ増幅するかをカメラに指示する作業なのです。従って、ISO感度の説明に、「撮像素子の感度を上げる」という書き方を散見しますが、この表現には少し語弊があるわけです。

 

 

~ISO不変が成立する理由~

ということで、そもそもISO感度を上げて撮影するということは、センサーが捉えた明かりを増幅するということです。それなら、これをカメラ内でやらずに、パソコンで自分でやっても同じような結果になるだろうと考えることができます (`・ω・´)b

Busyな図になってしまいましたが、一応図で説明するとこういうことです↓

<通常のプロセス>

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<後で明るさを調整する場合>

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~本当に成立するのか?~

さて、この記事を書くにあたって、多くの検証結果をインターネットで検索しました。

※この記事を書くに当たり、以下のように検索し、国内外の上位20記事を参照しました。

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そして概ね全てのページで、以下のように結論づけています。

「ISO不変性は機種によってある程度成立する。しかし、極端に後で明るさを持ち上げるとノイズが大きくなる。なので、ISO感度を上げて現場で適正露出に近づけた方が良好な結果が得られるのは事実である。」

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噛み砕いて言えば、「機種によりますが、やりすぎなければ、後で明るさをある程度持ち上げても結果は大きく変わらないよ」ということになります。

ただし、この「機種によりますが」というのが重要です。どこまでなら持ち上げてもISO不変性がどれだけ成立するかは機種によってかなり違うようです。例えばNIKONのD750やD810、SONYのα7RⅡはかなり健闘していますが、CANONの6DやSONYのα9に関しては成立しないというのがコンセンサスです。機種によって差がある原因に関しましては、シャドウ部のダイナミックレンジの広さと、(マニアックなので最後に「おまけ」として記載しますが、) AD-conversionに発生する、いわゆるdown stream noiseの量が関連しているとされています。

※reference sample:

 How to Find the Best ISO for Astrophotography: Dynamic Range and Noise – Lonely Speck

 Sony Alpha 7R II: Real-world ISO invariance study: Digital Photography Review

 Testing the Sony A73 for ISO invariance — Alyn Wallace Photography

 

 

~ISO不変性の歴史~

ISO不変性は最近のデジカメの撮像素子がどんどん優秀になってきてダイナミックレンジが広がっていることやデジタルデータ化するときのノイズが乗りにくくなってきたことに起因するわけです。そのため、実際にISO不変性が話題になってきたはここ数年の話であります。古いデジカメでは基本的に成立しないと考えて良いでしょう。

※reference sample

 ISO Invariance Explained - Photography Life

 

 

~私のカメラは?~

ただ、最近のカメラであっても、先述したようにカメラによってISO不変性が成立するとは限りません。なので、御自身の愛機がISO不変かどうかは、下記のreferenceや、DPReviewとかで確認する、または御自身で実験するのが現実的な調査方法のようです。

※reference sample:

  ISO Invariance: What it is, and which cameras are ISO-less

DSC_1593のコピー3

〜注釈〜

ただ、最近のほとんどのカメラはISO不変性をポテンシャルとして秘めています。たとえ、ISO不変性は認められないという機種でも、ある一定のISO感度以上はISO不変性として扱えるようになったりします。

例えば、某CANONのカメラはISO不変性が成立しないとされていますが、ISO 800以上では概ねISO不変として扱えたりするようです。

(`・ω・´) < ちょっとややこしいですね💦

 

 

~黒潰れに注意~

なお、黒潰れにはご注意下さい。例えあなたのカメラがISO不変性がある程度成立すると言われている機種であっても、データがないところはどうしたって修復できません。なので、ヒストグラムが左にべったり寄ってしまうようなデータは持ち上げようがないので御注意下さいませ。

<こういうデータならまだOK>

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<こういうデータではどうしようもない>

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~ここまでのまとめ!~

ISO不変性とは、(同じF値やSSで) 高いISO感度で撮影した写真も、低いISO感度で撮影したデータをRAW現像で明るさを調整した写真も、それほど解像感に差がないという事象を指します。このISO不変性は、実際にかなり成立すると言える機種もあるが、ほとんど成り立たない機種もある。

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ここまでよろしいでしょうか?

これで前半戦は終了です。

では次に、実際の撮影でISO不変性を活用する方法を考察してみようと思います!

 

 

~ISO不変を活用しよう!~

このISO不変性というセンセーショナルな事象を、実際の撮影で、どのように活用できるか考えてみましょう。

<CASE 1>

ISO 1600, SS 1/4000, F8で適正露出の場面で、ISO 100, SS 1/4000, F8で撮影してしまった!当然画像は暗くなってしまうわけです。

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しかし、ISO不変性が成立するなら心配無用。RAWデータがあるなら、帰宅してから持ち上げたとしても、あたかもISO 1600できちんと撮影したような良好な結果を得ることができます。「あの時、ISO 1600で撮影していれば…」と公開する必要は無くなるということです。

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つまり、F値・SSにより意識を集中することができ、現場で適正露出を追求することが義務ではなくなると考えられます。

 

<CASE 2>

星景写真を撮影する際に、ISO 3200, F 1.8, SS 15 secが適正である場合にISO 800, F 1.8, SS 15 secで撮影した。帰宅してパソコンで確認すると暗いことが判明した。

DSC_9991

しかし、ISO不変性が成立するなら、RAW現像して露出を3段持ち上げれば、あたかもISO 3200で撮影したかのような画像を得ることができます。こうすることで、いたずらにSSを上げて星が流れないようにすることができると考えます。

DSC_9991_00001

 

<CASE 3>

明暗差が激しい場面において、白飛びも黒つぶれもしないように撮影して後から現像で調整しても画質劣化が少ないということです

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<後で明るさを調整すればOK>

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ISO不変性がかなり適応できるカメラなら、もっともダイナミックレンジが広くなるISO感度で撮影して、あとから明るさを調整するのがベストとする海外のフォトグラファーの意見もありました。

 

  

~もはやISO感度は関係ない?~

繰り返しになりますが、ISO不変性は非常にセンセーショナルな発想です。カメラをはじめたころ、最初に覚えるのが、「ISO感度F値・SSの三つ巴の関係」だと思います。

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このうち、ISO不変性が完全に成立するなら、極論ISO感度は気にしないで撮影して良いことになります (非圧縮RAWで撮影するなら、ですよ ^^;)。

なのでISO不変性のことを、ISO-lessと表現するフォトグラファーもいるみたいです。

 

 

~Limitation~

しかし、現実的には、やはり適正露出で撮影する努力は重要です。残念ながら、2018年現在、ISO不変性を完全に再現したカメラはありません。

実際に多くの検証結果でも、ISO不変性がある程度成立するという機種であっても、(己の意図するF値・SSに対して) 適切なISO感度で撮影した場合の方が、あとでRAWデータを強引に持ち上げるよりもノイズも色被りが少ないと結論しているからです。

実際に個人的にISO不変性が成立するというカメラで実験しても、5段も上げるとさすがにちょっとアラが目立ちました。

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左はISO 100で撮影して5段上げたもので、右はISO 3200で撮影したもの。

なので、私の現時点での考察としては、露出に失敗した時のリカバリーツール的な使い方、F値・SSに集中するためのツール、星撮影に際してのSSを抑えるツールとして使用するのが適当と考えています。

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また、「ISO不変性が成立するから暗く撮影しても良い」と曲解しないことも重要です。どんな状況に於いても、しっかりセンサーを露光させることが大事なことは言うまでもありません!

例えば、ISO 100, F 8 , SS 10 secで撮影するのが適切な環境で、ISO 100, F 8, SS 1 secで撮影したとしましょう。この写真の明るさを持ち上げても、ISO 100, F 8 , SS 10 secで撮影した結果に比べて酷い結果にしかなりません。なぜならSS 1 secと10 secでは、センサーの露光量が違うのですから!

ISO不変性はあくまでISO感度の話しであり、「暗い写真でも後で明るさを調整すればいい」と曲解してはいけないのです。

もっと言えば、現場できちんとセンサーに十分な光を与えればそもそもゲインを上げなくて良いわけです。すなわち、ゲインを上げないで十分にセンサーに露光できるのがベストなことには変わりないのです。 

 

 

~今日のまとめです!~

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ISO不変性とは、ISO感度を上げて撮像した写真も、ISO感度を下げて撮像して、その後RAW現像で明るさを調整した写真もほとんど同じ結果になる」というものです。

最近のデジカメであってもISO不変性かどうかには機種によって差異があり、自分の機材がどの程度の調整に耐用するかは把握しておいて損はありません。

ISO不変性が成立するカメラならば、多少アンダーで撮影したくらいなら、後からリカバリー可能です。しかし、過剰に露出を立ち上げた場合、画質が荒くなります (完全にISO不変性を成立させたカメラはまだ存在しません)。

私の現時点での考察としては、リカバリーツール的な使い方、F値・SSに集中するためのツール、星撮影に際してのSSに対する保険として有効と考えています。

 

 

~おわりに~

ISO不変性は写真撮影における強力なtipsだと思います。なので、もし御存じでなければと思い記事にしてみました。どなたかの参考になってくれたら幸いです ^^

最後になりますが、私が勘違いしていることや補足事項がございましたらコメント欄にお願いします。長い記事でしたが、最後までお付き合い下さりありがとうございました m(_ _)m

 

 

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~おまけ:ISO不変性の成立条件~

最後にISO不変性が成立するための条件について記載しておきます。しかし、これはややマニアックな話ですし、知っていても実際の撮影には影響ないと思いますので、本当に興味のある方だけ読んでやって下さいませ ^^;

さて、本文中にもちらりと記載したのですが、ISO不変性が成立するのはシャドウ部のダイナミックレンジが広いことはもちろん、back stream noiseというものが少ないことが条件です。

本文中にも使用した、この図をご覧ください。

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③のプロセスでセンサーが受け止めた光のアナログデータをデジタルデータに変換するプロセスです。これをA-D conversionと言います。この際に乗るノイズをback stream noiseと言います。これは重要なので覚えておいてください。

さて、写真には様々なノイズがあり、露光の段階 (①) で既にノイズが出現しています。自然界に存在するphoton noiseやセンサーの熱ノイズなどがそうです。

話しが飛ぶようで恐縮ですが、ここでISO不変性の定義に立ち返りましょう。

「②でISO感度に従って明るさを増強しても、②で明るさを増強しないで④の段階で明るさを増強しても同じような結果になる」というものです。

勘のいい方なら理解できたかもしれませんが、③でノイズが乗るとこれが成立しなくなります!説明しますね!

<まずは③でノイズが乗らないと仮定します>

設定したISO感度に従って明るさを増強する場合は「①ノイズが②で増強される」。一方、②で増強しないで、後で④で調整する場合は、「①ノイズが④で増強される」ことになります。明るさの増強量が ② ≒ ④ なら恐らく似たものになるでしょう。

<今度は③でノイズが乗ると仮定します>

設定したISO感度に従って明るさを増強する場合は「①ノイズを②で増強する+③のノイズ」が出現します。数式で表現するならノイズ量は① × ② + ③です。

一方、②で増強しないで、後で④で調整する場合は、「①ノイズと③ノイズを両方④で増強する」ことになります。数式で表現するなら (① + ③) × ④ です。

これは明るさの増強量が ② ≒ ④ だとしても、違う結果です!つまり、ISO不変性は成立しません!また、カメラ内でISOに従って調整した方が良好な結果になることも説明できます。したがって、③のノイズ、すなわちdown stream noiseが少ないカメラほどISO不変的と言えるようです。

この最後の「おまけ話」は知らなくても、実用上は問題ないと思います ^^;

ややこしい説明ですいません m(_ _)m💦